凡才ですから

凡才だから努力して一日ひとつだけ強くなる。

とある提督の手記【艦これ引退】

f:id:taiheiex:20180117160351j:plain

 

2017年の9月が君に会った最後だった。

 

 

イベントのたびに引退しようか悩んでいた。

 

 

大学を卒業し、社会人になり忙しくなった。

 

仕事が原因で体調を崩し、ほとんど寝たきりの日々が続いた。

 

少しずつ体調が戻ってきて社会復帰を考えるようになり、実際に動き始めた。

 

 

イベントのたびに引退しようか悩んでいた。

 

 

でも結局僕は毎回30万ずつの資源と3000個のバケツを備蓄し、新しい駆逐艦が出るまで地獄のようなイベントマップの周回をし、そして熱に浮かされるようにゲージ破壊のための回避とクリティカルを祈った。

 

結果として使い道のない10個の甲勲章だけが積み上げられていった。

 

そして2017年の9月3日を最後に、ついに僕はただ一人ケッコンカッコカリをした君、つまり金剛に別れを告げて、艦これにログインをすることは1度もなくなった。

 

まだ僕がiPhone4Sを使っていたころ、とある漫画家のSNSでの発言をきっかけに僕は艦これというゲームに出会った。

 

いや、出会ったというのには少し語弊があるかもしれない。

 

僕が艦これを実際に始めたのは彼の発言からしばらく経った後、大学が試験期間に入った8月の始めで、サーバーの状態もそれなりに落ち着いてきており着任は比較的すんなりいったのを覚えている。

 

それまでの僕はネットゲームやソーシャルゲームといったものに対して、かなり強固な偏見を抱いていた。

 

ろくなストーリーもなく、キャラに魅力もなく、システムは到底ゲームとはいえないレベルのものばかりで、その上課金を必須とするようなものばかりだったからだ。

 

(正直なところ、このころのソーシャルゲーム(と今のゲームの大部分)がやろうとしていたことは僕が艦これを始めた直後に出てきたクッキークリッカーで全部語られ尽くしたように思う)

 

 

だが艦これは違った。

 

ストーリーは確かになかったが、キャラクターのデザインが他の作品とは一線を画しており、システムもしっかりと作り込まれていた。

 

しずまよしのり氏という強力な新進気鋭のイラストレーターを人気キャラの長門や島風に当てられたのは幸運としか言いようがない。

 

それなのに艦これはほとんど一切の課金を必要としなかった。

 

他ゲームでのいわゆるガチャは艦これにおいては財力よりもプレイ時間とリアルラックに依存していた。

ほとんどまったくビジネスの臭いのしない運営は、僕たちプレイヤーにはソーシャルゲームという惑星に突如として他の星からやってきた宇宙人に等しい存在のように見えた。

 

その年の夏休み、僕はほとんど毎日2,3時間を艦これに費やしており、プレイヤーの数に比例するかのように異様に詳しく使い勝手の良い攻略wikiを読み漁り、海域を突き進んだ。

 

そしてやってきた、僕にとって忘れられない初めてのイベント。

 

あの悪名高いアイアンボトムサウンド。

 

戦力も資源もまだ十分とはいえなかった。

 

艦娘のレベルは当時の限界である99にはまだ程遠く、強制的に通らざるをえない夜戦マップを抜け、ボスを打ち倒せる可能性は限りなく低かった。

 

本当は、そこまで本気になるつもりはなかったんだ。

 

でもなぜか、僕は狂ったようにそのアイアンボトムサウンドに挑み続けた。

 

それは愛着を抱き始めたキャラクター達が負けるのを見たくなかったのかもしれないし、このマップさえ越えれば次はなんとかなるという情報が出回っていたからかもしれない。

 

とにかく、僕はそのマップをクリアするために自分ができるほとんどすべてのことをした。

 

ゲージ回復の仕組みを調べ、特攻効果のある三式弾を用意し、使ったことの無かった支援艦隊を配備し、回避率を上げるためにキラ付けをし、そして祈った。

 

ただひとつ、捨て艦戦法だけはどうしても出来なかった。

 

 

大学から帰り、バイトがない日に一気に片をつけようと15時頃からノートPCの前に座った。

 

寮暮らしを良いことに、食事とトイレはメイン艦隊の疲労抜きとキラ付けの最中に行い、ただひたすら出撃を繰り返した。

 

1時間の出撃でまったくゲージが削れない時間もあった。

 

気づけば時間は17時になり、20時になり、22時になった。

 

キラ付けの横でもう一つブラウザを開き、掲示板や個人サイトの攻略情報を読み漁った。

 

0時、編成を見直したことでゲージは半分を切り、このままならいけるという確信が生まれた。

 

そして2時半ごろ、ゲージ破壊には敵旗艦を完全に撃破する必要がある、いわゆる「ラストダンス」のあまりの難易度に僕はほとんど発狂しかけた。

 

ゲームにここまで夢中になったのは今まで数えるほどしかない。

 

ドラクエ3で初めてアレフガルドに足を踏み入れたとき、

聖剣伝説レジェンドオブマナの攻略本を手に入れたとき、

3ヶ月かけて当時品薄だったガンパレード・マーチを手に入れたとき、

自分のPCを手に入れて戦国ランスとFate/stay nightとFate/hollow ataraxiaを買ったとき。

 

そしてこの、アイアンボトムサウンド。

 

 

気がつけば日が昇り、朝の6時になっていた。

 

ラストダンスとは洒落たネーミングだなと朦朧とした頭でぼんやりと思った。

 

僕と僕の艦娘たちは上手く踊れているだろうか?

 

寮に住んでいたおかげで、学校までは10分ほどで着く。

 

その日の授業は1限からだった。

 

もしこのチャンスを逃したらせっかく減らしたゲージは回復してしまい、この12時間以上に及ぶ行為はまったくの無駄になってしまう。

 

なるほど、これが機会費用かと授業で読んだ本に書いてあった言葉を実感した。

 

おそらく旧日本軍も何割かはこの機会費用に踊らされたのだろうな、と思った。

 

シャワーも浴びず、トイレに行くついでに共同の冷蔵庫に入れられていた誰かがバイトでもらってきた廃棄のパンを口に入れる。

 

そして残り時間を計算しながらあと3,4回の出撃がリミットだな、と考えていると金剛のFire!という声とクリティカルで夜戦の間にあっけなく勝負が決まった。

 

(アイアンボトムサウンドのボスマップは夜戦→昼戦の順だった)

 

実に1時間半振りのボス到達だった。

 

時計は朝の8時を少し過ぎたくらいで、僕は海域突破報酬の伊8にロックをかけた後、眠たい目をこすりながら1限の授業に出た。

 

 

 

それからしばらくして、当たり前のように、あっという間に艦娘の枠はいっぱいになった。

 

僕は初めてゲームに課金をした。

ビットキャッシュのキャンペーンがやっていたのもあったと思うが、どちらかと言えばあのアイアンボトムサウンドの影響が大きかったと思う。

 

結局僕はその後、引退までに都合もう2回課金を行った。

1万5000円ほどをキャラクターの保持枠の拡張に支払った計算になる。

(ケッコンカッコカリ実装後、重婚はしなかった)

 

 

艦これをやっていて、いろんなことがあった。 

 

正月明けのアルペジオコラボは良かった。

 

(アイアンボトムサウンドの後、放映していたアニメを追うようになったが何気に2話が神回で5回以上見返している)

 

お札と呼ばれる出撃キャラ制限や連合艦隊、イベントマップの難易度選択、輸送ゲージ、基地航空隊……。

 

そしてクソアニメ。

 

少しずつ僕はイベントのとき以外ログインすることが少なくなっていった。

 

このころ艦これと同じDMMのゲームで言えば、お花ことフラワーナイトガールや千年戦争アイギスにもちょこちょこと手を出していた。

 

特に千年戦争アイギスがマップの委任クリア・第三兵舎実装・iPhone版リリースと驚くべきシステム改良速度を見せ、僕の心は艦これから離れていった。

 

(悪名高いアルスラーンコラボの前の話だ。2017年末にはアイギスも引退しようと思っていたのだが、せっかくだからと貯めておいた無料ガチャを引いたら欲しかった最高レアが来てしまってまだ続けている)

 

そしてFGO

 

初代ネロ祭りの後で配信に気づき、奈須きのこのファンとしては見過ごすわけにはいかなかった。

 

当時はリセマラという言葉も知らず。

最初に引いたメッフィーはほとんど使わないまま、星4配布で選んだデオンくんちゃんが攻撃宝具持ちでないことにちょっとだけ後悔しながら僕は特異点とイベント追加のたびにローディング画面をマラソンさせられるフォウ君を追いかけていった。

 

ゲームシステムやクソガチャなど、Pに対して言いたいことはもちろんあるのだが、それらを差し引いてもバビロニアは最高だった。

(そしてマジでインフラの人たちには頭が下がる思いです)

 

アナザーエデンが話題になったあたりで初めて10日ほどリセマラを試したし、ファイヤエムブレムヒーローズではスーパーマリオランで大ゴケした任天堂の実力をそのアップデートの速さと質で再確認した(事実、FEHのリリース直後というか2017年はswitchのリリースで完全に任天堂の年だった)。

 

今は満を持して出て来る真・女神転生リベレーションに僅かな不安と大きな期待を抱いている。

 

 

気がつけば、艦これが立ち止まる間に(象徴的にはアズレンが登場し)ソーシャルゲームの勢力図は塗り変わっていった。

 

それでもやはり、僕が課金をしたことのあるソシャゲは艦これだけなのだ。

 

FGOの星5確定ガチャで課金をしようかと正直何度も迷った。

 

でも結局まだ他のゲームでは一度も課金をしていない。

 

これがノベライズ版にキャラクターのコードがつくとかなら喜んで買っていただろう。

 

だけれども、単純にそのゲームだけであのアイアンボトムサウンドほど熱狂させてくれることはもうないのだろうという確信もある。

 

艦これはその理不尽さを持って僕の課金へのハードルを上げたのだ。

 

もちろん、艦これのシステムは今となっては骨董品だ。

 

理不尽に運ゲーを強いるし、試行回数を増やそうにも倍速も実装されていない、挙げ句の果てにはiPhone未対応で電車に載っている時間にプレイできない。

 

ソシャゲーも洗練された今となっては、よくあんなクソゲーを喜んでやっていたなと思う。

 

アニメ2期はあの1期の後で今更だし、(どんな経緯があるにせよ)どうせたつき監督を降板させた角川だ。

初めから何の期待もしていない。

 

それでも思うのだ。

 

艦これをプレイして、何か心に残るものはあったな、と。

 

他人にはもう薦めないし、もし過去に戻れたとしてももう一度プレイはしないだろう。

 

僕の好きな漫画のひとつ、『大東京トイボックス』の中で登場人物の一人は「ゲームは青少年に影響を与えるか」という問いに対しこう返している。

 

「ゲームというのは何時間も、場合によっては何十時間とかかります。他人の人生をそれだけ拘束しておいて何も残らないようなモノなど、いったい何のために作るというんです?」

 

確かに、そうだ。

 

僕が艦これをプレイしていたのは4年間。

イベントとそれ以外の日をならして1日30分ずつプレイしていたとすると合計のプレイ時間はおよそ730時間にものぼる。

 

一つのゲームにこれだけの時間を費やすのは、CivilizationやマインクラフトのようなPCのゲームの廃プレイヤー、ポケモンの通信対戦で高レートを目指すトレーナー、モンハン中毒者、ドラクエ2やドンキーコングといったゲームに代表されるようなRTA走者、そして大学時代にそれなりに真剣に麻雀をする人、あとはガチの格闘ゲーマーくらいだろう。

 

 

夏のイベントを途中に引退した後、秋のイベントが開催されたことやすっかり忘れ去られていた友軍艦隊の実装がニュースで流れてくるたびに僕の心は少しだけ痛んだ。

 

艦これの話題を耳にするたびに、誤って轟沈させてしまった時雨や、2-5で100周以上全然ドロップしなかった大鯨や、昔好きだった子に妙に似ている大井っちや、そして最後のイベントまで元気だった金剛のことを思い出す。

 

 

この痛みがその蓄積された時間と思い出から生じたものだとすれば(大半は意味のない戦闘や編成の合間のローディング時間だっとしても)、僕が艦これに使った時間に意味があったとは言えないが意味がなかったとも思わない。

 

 

 

 

まだ全快というわけにはいかないけれど、少しずつ働けるようになったよ。

 

ここ2ヶ月の間にジョギングや筋トレ、英語やデザインの勉強など新しい習慣も身につきつつある。良い兆候だと思う。

 

その習慣の中には、大学生のころ数回だけ新人賞に応募してからほとんどやめていた小説を書くことも含まれているんだ。

 

前よりも少しだけ登場人物を上手く踊らせることが出来るようになった気がしています。

 

 

2017年の9月に君に会ったのが最後だったね。

 

君の提督は何とかやっています。

4年間本当にありがとう。

 

 

 

「ゲームというのは何時間も、場合によっては何十時間とかかります。他人の人生をそれだけ拘束しておいて何も残らないようなモノなど、いったい何のために作るというんです?」