『独学大全』ってどんな本?実際に読んだ人の感想やレビューが知りたい。
辞書みたいに分厚くて読みきれないんだけどどうしよう……。
この記事ではそんな人の悩みに答えます。
インターネット上でひっそりと勉強法を発信し続けてきたサイト、
「読書猿Classic: between / beyond readers」。
そんな知る人ぞ知るサイトを運営し、『アイデア大全』『問題解決大全』で〇〇大全と名前のつく本のブームを生んだ読書猿さんの独学本がついに出ました!!!
待ちに待った読書猿さんの勉強本、『独学大全』の感想と評価は……。
ズバリ、
すべての勉強法の本を過去にする最強の勉強本
です!!
前著2作に引き続き、ただのビジネス書ではない圧倒的な人文知のかたまり。
そんな『独学大全』の
- なぜすごいのか、本の良いところ
- 注意が必要なところ
- 挫折しないための本の使い方
をまとめていきます。
『独学大全』のレビュー・感想・評価
冒頭でも触れたとおり、『独学大全』は率直に評価して、
最強の勉強法本
であると数多くの勉強法本を読んできた身としては考えています。
では『独学大全』のどこがすごいのか、逆にどこに注意が必要なのかについて説明していきましょう。
『独学大全』がすごい3つの理由
あらゆる勉強法の原型を体系化して網羅している
世の中にはたくさんの勉強法について書かれた本があります。
最近売れたのだとメンタリストDaiGoさんの『超効率勉強法』とか、ちょっと前だと『ビリギャル』とかもある意味では勉強法の本と言っても良いでしょう。
『独学大全』のすごいところは、ほぼすべての勉強法を体系的にまとめて網羅している点です。
もちろん、完全に他の著者と同じ勉強法を載せているわけではありません。
科学的に根拠のある研究されてきたもの。
有名な学者などが使いはじめて長く使われ続けているもの。
そういった流行だけではない勉強法の本流とでも言うべき流れの原型を抽象化して本質をしっかりとおさえているのです。
例えば『レバレッジ・リーディング』は技法35「掬読」や技法36「問読」などを組み合わせたものです。
あるいは『7回読み勉強法』は技法34「転読」や対話の中で語られた前提となっている読み方「何度も読む」の組み合わせと考えることができるでしょう。
著者の読書猿さんの前著『問題解決大全』『アイデア大全』でもそうでしたが、読書猿さんの著作には共通点があります。
その共通点とは、
- 本の中で知識を目に見える形で体系的にまとめていること
- 単に自分が思いついた手法だけでなく、それまでの歴史を重視していること
- 結果として他の本であまり語られない部分もしっかりおさえていること
です。
『独学大全』では今までの本の特徴である体系的なまとめから一歩踏み込んで、使いやすさを重視しているように思います。
動機づけと継続と調査方法についての詳しさ
他の勉強法の本で重要視されているのは、
- 暗記法や読み方などインプットの方法
でありそれは突き詰めると
- 理解
- 記憶(多くの場合暗記)
の2種類をいかに効率よくするかに焦点が当てられたものがほとんどです。
ただ、これは勉強の中ではごく一部のステップに過ぎません。
『独学大全』は34ページで「独学の全体像」を示しています。
ここでは、
- 勉強を始める、続けるために必要なこと
- 何を勉強するか
- どうやって勉強するか
という流れが明らかにされているのです。
他の本では1と2の部分が特に不足していること、3についても網羅はできていないことが『独学大全』では体系的にまとめられているので気づくことでしょう。
『独学大全』が詳しくまとめている1と2を細かく見ていきましょう。
1は動機づけと継続についてです。
ここ10年ほどでかなり増えた習慣に関する本では多少なりとも取り上げられている内容もあります。
ですが1章の「志を立てる」や2章の「目標を描く」といった動機づけ部分の本質を抜き出してまとめた本は見たことがありません。
勉強が続かないという人は1,2章を読むだけでも『独学大全』を買う意味があります。
一方で2は独学というよりむしろ大学生・大学院生を始めとした研究者向けの基礎知識と言っても良い、やや使い所が難しい内容になっています。
最初から順に読んでいく通読ではこのあたりで心が折れる人が多いのではないかと思いました。
昨今では資格試験や受験勉強、プログラミングなど人気のあるスキルに関してはそれなりに学習のロードマップが整理されています。
第2部の技法を使いこなせなくても何とかなってしまうことが多いんですね。
では第2部の情報収集のやり方は役に立たないのか?
いえ、むしろこの第2部は普通の人にとってはアウトプットで活かされます。
仕事で資料を作るためにネットでパッと見つかる以上の一次情報を追いたいとき。
小説やマンガを描いたり、専門的な記事を書く必要がある場合にアウトプットの必要に応じてインプットするとき。
こういったときに深いところから情報をくみ上げてきてアウトプットに使うのです。
「できない」を前提に書かれている
『独学大全』は序文で、
この本は確かにあまり賢くなく、すぐに飽きるしあきらめてしまう人たちのために書かれた。
出典:読書猿(2020).『独学大全』ダイヤモンド社(P.32)
と書いています。
その言葉はけっしてお飾りのものではなく、あらゆる場面で「できない」を前提に本が作られているのです。
具体的にまとめると、
- そもそも始めることも続けることもできないために第1部を割いている
- 知りたいことすら分からない場合もフォローしている
- 本や資料の探し方・整理の仕方もフォローしている
- 読み方や覚え方を網羅しており、暗記法などは50個近く書かれている
- 「わからない」の克服法も書いてある
- 4部で技法の具体的な使い方も書いてある
- 本の使い方も後ろの困りごと索引に書いてある
- 気になった用語や困りごとのために索引が30ページ以上ある
という徹底具合です。
そもそも『独学大全』自体が網羅性のために非常に分厚く、読み切ることができないと考えているのでしょう。
この本は読む本である以上に使う本だということをかなり力を入れてフォローしているのです。
実際に使っていけば勉強の最中やあるいは勉強の前に「できない」「わからない」状態になったら『独学大全』が助けてくれるのがよく分かるはずです。
『独学大全』のここに注意
勉強法の本としては他の本にない利点を数多く備えていると同時に、『独学大全』にはいくつかの注意点や気になる点もあります。
分厚すぎて挫折する、ストーリーが少ない
最も大きな問題は、網羅性を重視したために辞書並に分厚くなってしまったところでしょう。
また、よくある勉強法の本のように「著者はこの勉強法でこうやって成功した」というふうなストーリーがありません。
各章の冒頭に「無知くんと親父さんの対話」が、第4部に「ある独学者の記録」がありますが全体の量としては多くはありません。
Kindle版でなければ持ち運びが厳しいのはもちろん、ストーリー的な盛り上がりが少ないことで途中で読み通すのを挫折する人も多そうです。
効率はあまり重視していないように見えるかも
最近の勉強法の本は個人の経験から科学的な裏付けのある勉強法にトレンドがシフトしてきています。
メンタリストDaiGoさんの著作などはその筆頭でしょう。
一方で『独学大全』はテキストの再読どころか書き写しまでも取り上げています。
もし独学ですべてのテキストを書き写していたら、とてもじゃありませんが効率が悪すぎますよね。
情報収集についても技法をいくつも使いこなした時間のかかる文献やテキストの選定を必要としない人も多いでしょう。
網羅性を重視すれば当然、すべての技法があらゆる状況で役に立つわけではなくなってきます。
効率的に学ぶためには自分に必要な技法を選ぶ必要が出てくる、しかしそれぞれの技法を使いこなすのは初心者には難しいという問題を抱えているのです。
勉強の効率に関しては、ふろむださんの『 最新研究からわかる 学習効率の高め方: 英語学習者、受験生、教員、親向け』が今までの本とは一線を画しています。
個人的な感想ですが『独学大全』とあわせて勉強の仕方がかなり根本的に変わりました。
1巻が無料公開されているので気になった人は読んでみると良いと思います。
アウトプットに弱い?
『独学大全』はインプットを全面的にカバーしています。
一方で例えば学びの一部であるだろう論文の執筆のような得た知識の使い方、アウトプットまではカバーされていないように思えます。
これには3つ、
という反論があります。
読書猿さんの『独学大全』『問題解決大全』『アイデア大全』の3冊を使いこなせば非常に多くのことができるようになります。
例えばインプット、アウトプットという点で見ると、
- 『問題解決大全』でアウトプットに何が足りないかの大枠を明らかにする
- 『独学大全』で足りないものを詳しく調べてインプットする
- 『問題解決大全』と『アイデア大全』でアウトプットする
という流れを生み出せるようになることに気づきます。
そして実際には何百あるいは何千時間とかかるような勉強ばかりではありません。
先にも少し触れましたが仕事で資料を作るために調査と情報のまとめ(キュレーション)、勉強の過程それ自体がアウトプットになることも多いのです。
また、本格的に論文を書いたり、そこまで行かなくてもブログなどで自分の考えを書こうと思った場合はその方法自体を独学することも難しくありません。
インプットの仕方さえ分かればアウトプット自体も自由に学ぶことができるのです。
『独学大全』を挫折しないための読み方・使い方
最初から読む、そして途中で投げ出す
いきなり矛盾していますが、『独学大全』を挫折しないための読み方としてまずおすすめするのは「最初から読んで飽きたら一度本を閉じる」ことです。
この本は非常に分厚く、読書に慣れていない人が読み通す「通読」をするのには難しく作られています。
ですがここで逆に、読めない本を読む方法を学ぶことができると考えればよいのです。
個人的には今まで勉強法の本を買って、それを読み切っても試さないことがかなり(1/3くらいはたぶん)ありました。
『独学大全』は使いこなすことは難しいですが、まず使い始めること自体は難しくないのです。
読む本ではなく使う本だということを試してみて実感してみましょう。
4部「ある独学者の記録」を読む→気になった技法を読んで試す
前から読んで投げ出したら、まずは後ろから読みましょう。
4部の「ある独学者の記録」では国語・数学・英語のそれぞれを『独学大全』の技法を使って学ぶストーリーが短く描かれています。
非常に読みやすく、読み通すことは難しくありません。
(ある意味では一部だけ読むことそれ自体が技法4「1/100プランニング」でもあります)
ストーリーの中で使われていた技法はそれぞれのお話の最後にまとめられているので、気になった技法を読んで、できれば試してみると良いでしょう。
特に技法2「可能の階梯」、技法3「学習ルートマップ」、技法39「音読」は2回使われているので読んでみるのがおすすめです。
「音読」については英語などで重要性は理解していたつもりでしたが、意外な発見があって考え方を変えられました。
「無知くんと親父さんの対話」だけを読む
「ある独学者の記録」を読めてなぜ最初から最後まで読み通せないのか。
それは各技法にお話、ストーリーがないからです。
逆に言えば、「ある独学者の記録」のようにお話があれば読み通すのは難しくありません。
なら『独学大全』で「ある独学者の記録」以外にストーリーの要素を持つ、「無知くんと親父さんの対話」の部分だけを読んでしまいましょう。
それぞれが短いですし細かく分かれているので全部読むのは難しくありません。
ですが全部集めれば50ページ以上になり、これだけでも全体の10%近くを読み終わることになります。
さらに重要なのは、『独学大全』の全体の流れが理解できるようになること。
これにより『独学大全』全体が読みやすくなると同時に、技法28「目次マトリクス」や技法35「掬読」の準備運動にもなってくれます。
「独学困りごと索引」に技法36「問読」を使う
辞書を最初から最後まで読み通すのはほとんどの人にとって苦行。
ですが必要に応じて調べたい言葉を調べるのは難しくありません。
お話しの部分を読み終えたら、次は自分に関係のある=興味のある部分を読んでいきます。
やり方としては、本の一番うしろに折りたたまれている「独学困りごと索引」に対して技法36「問読」の手法を使います。
具体的には、それぞれの項目を疑問文に変えてみるのです。
例えば、「この本の使い方がわからなかったら」→「この本の使い方はわかる?」と変換します。
答えとなる箇所はすぐ下に載っているのでその技法を読めばよいのです。
人間というのは不思議なもので、問題を与えられると自然と解こうとしてしまうもの。
あまり興味のなかった技法でも問いに対する答えをまとめようとすると内容が頭に入ってきやすくなりますよ。
そして「独学困りごと索引」にすべて答えられるようになったら、残っているまだ読んでいない技法はあと8つだけになります。
既に読んだ技法を使いながら残った技法を読む
「独学困りごと索引」で触れない8つの技法は、技法18,21~25,48,54の8つです。
そう、ほとんどが第2部の知りたいことを見つける部分、特に資料と本を探す章に集中しているのです。
ここまで詳しい文献調査や学ぶ本の吟味は必要としない人も多いから残っているのでしょう。
ですが、今は使わなくても技法の大まかな内容を知っておけば必要になったときに改めて読み返せます。
というわけで、ここまで読んできた技法を使ってまだ読んでいない技法を読んでみましょう。
具体的には技法34~37の速読のセット、技法4,5の読み始めるためのセット、技法9~13の読み続けるためのセットを使うのです。
飽きたら息抜きにまだ読んでいないコラム部分を読みましょう。
技法の部分よりかは読みやすいはずです。
必要な技法から使い始める、必要になるまで読まない
どうしても読めない部分があっても問題ありません。
独学はいつやめても、いつ再開しても良いと『独学大全』では最初に書いています。
無理に全部読んでそこで終わらせてしまうより、必要な技法から使いはじめて理解を深めていったほうがよほど意味があります。
必要になるまで読まないということは、逆に言えば他の技法を使い続けているということにもなるのです。
おそらく10万冊の勉強本が売れたら、どんな方法でも読み終えられるのはせいぜい2,3割です(読破率に関する調査があります)。
書かれている勉強方法を使う人はその数字以下でしょうし、使い続ける人はさらに少ないでしょう。
もし読んだ本すべてを(小説以外の、あるいは小説も含めて)使い続けることができたら、それだけで何かを成し遂げられるのではないかと思います。
まとめ:いちばん大切なこと
心理学では「ダニング=クルーガー効果」というものが知られています。
簡単に言ってしまうと、「初心者ほど自分の実力を過信し、経験者ほど自分の実力を過小評価する」という認知バイアス(かたより)のことです。
「読めない」と「読める」の間にはたしかに差があります。
でも、実はそれ以上に「読める」と「使える」の間にはさらに長い距離があるのです。
「『独学大全』みたいな厚い本を読める人なら最初から(読まずとも)独学できるはずだ」という人は独学を舐めすぎだと思う。
— 読書猿『独学大全』9/29刊(三刷 決定)、電子書籍10/21配信予定 (@kurubushi_rm) 2020年10月12日
「『独学大全』なんて本を必要とする者が、こんな厚い本など読めるものか」という人は独学者を舐めすぎだと思う(あるいは本の読み方を一種類しか知らないのかもしれない)。
だからこそ『独学大全』に限らず私たちは本や知識を手に取ったとき、謙虚になる必要があるのでしょう。
『独学大全』は一度や二度読んだだけでは身に着けられない、量と奥行きを持った本。
独学をよりよいものにしていくためにも、どんどん技法を使っていきましょう!
『独学大全』も参考にした勉強法の記事も書いてます。