東大受験漫画「ドラゴン桜」のヒットから10年。
今一番アツい青年漫画週刊誌ビッグコミックスピリッツで、
中学受験をテーマにした「二月の勝者-絶対合格の教室-」が始まりました。
1話目を読んでビビッときたので紹介させて頂きます。
大学受験改革を前に。今、中学受験がアツい!
Q.東京都の小学6年生の内、どれくらいの子が中学受験をするでしょうか?
A.なんと約2万5000人! 割合で言うと4人に1人!
一話目から衝撃のこの掴みですよ。
都会に住んでいないと中学受験ってあんまり想像できないかもしれませんが、実はかなり増えています。
僕も仕事柄、教育関連の需要には多少詳しいのですが、中学受験のニーズって今本当に多いです。
高校受験・大学受験・その他を全部合わせても中学受験の仕事の方が多いというのが実感ですね。
背景には自身が中学受験をした人材を中学受験市場は求めているが、そういった人材は元々数が少ない上に教育系にはあまり来ないというのがあるかと思います。
高校受験・大学受験がガンガン競争をして安価になり、かつて大手予備校だった代ゼミが大幅に縮小したのは記憶に新しいです。
一方で中学受験はますますヒートアップ。
そんな中で「二月の勝者」は2020年の大学受験改革を一つのテーマとしています。
この受験改革では英語が外部試験を導入したり、
現在のセンター試験からかなり傾向が変わるようですね。
今でさえほとんどの学校が大学受験に対応できていない中、
この受験改革でさらに進学校とその他の学校の教育力の差は広がりそうです。
そのあたりのことに加えて、3話までを読んだ現在、
「二月の勝者」のもう一つのテーマは「金」もしくは「ビジネスとしての教育産業」だと感じました。
物語の主人公は業界最大手の進学塾から弱小塾を立て直すためにやってきた拝金主義者。
もうひとりの主人公であるヒロインは、新卒で弱小塾に就職した教育にぼんやりとした理想を持った女の子。
ドラゴン桜的な教師の対立関係もバチバチ描かれていきそうで、これはアツいですよ!!
小ネタに終止したドラゴン桜に対抗するのに必要なのは「物語としての骨太感」
漫画が社会現象になり、ドラマのクオリティも高かった「ドラゴン桜」。
「二月の勝者」がそんなポスト「ドラゴン桜」になるのに必要な要素は何でしょうか?
「ドラゴン桜」でヒットした三田紀房先生は決して絵が上手いわけではありません。
ただ、三田先生の絵柄は「カイジ」や「アカギ」で有名な福本伸行先生のように一発で分かる特徴を持っています。
さらに三田先生は東大受験というテーマの選び方も確かに上手いのですが、
それ以上にドラゴン桜ですごかったのは「毎回の情報の見せ方」でした。
ドラゴン桜は普通の漫画とは違う、ビジネス書的な文法で描かれていた珍しい作品なのです。
ライトノベルで言えば「女子高生がドラッカーを読んだら」あたりの感じですね。
この要素と合わせて載っていた雑誌が島耕作などビジネスマンも読むモーニングだったことも、ヒットを後押ししていたと思います。
対して「二月の勝者」が載るスピリッツは浅野いにお先生を抱えていたり、芥川賞を受賞した「火花」をコミカライズしたりもう少しサブカル寄りな感じ。
このあたりの事情を考えると、「二月の勝者」が「ドラゴン桜」に並ぶのに必要なのは「物語としての骨太感」だと思うのです。
ドラゴン桜も東大合格という一本筋が通ってはいたのですが、どちらかというと小ネタに終止した感がありました。
これはキャラクターの葛藤とか精神的なゆらぎを意図的に排除していたのと、
話の中で山場を作らなかったからだと思うのです。
「二月の勝者」はこの、小ネタと物語の両方を必要とするタイプの作品だと思うのですが、この二つが両立しているのは漫画編集者をテーマにした「重版出来」くらいです。
「重版出来」ではお仕事物として小ネタをテーマにしたシリーズの回と、
メインとなる新人漫画家がデビューしてヒットする過程の回を上手く組み合わせています。
テーマが面白いですし、このあたりのバランスを上手く描いてぜひ「二月の勝者」にはヒット作になってほしいものです。
大学受験のキーワードは「自立」中学受験のキーワードは「家庭」
さて、なぜ小ネタより物語が重要なのかについてもきちんと理由がありますよ!
それは「ドラゴン桜」が取り扱った大学受験に必要なのが「自立」なのに対して、
「二月の勝者」の扱う中学受験に必要なのが「家庭」だからです。
これは塾に通わせられる経済力があるということももちろんあるのですが、
それ以上に親の教育力や本気度が問われるのが中学受験だということですね。
伸びる子の家には○○がある
教育関連で働いている僕の個人的な意見の一つなのですが、
伸びる子の家には地図が貼ってある
というのがあります。
(日本地図とか世界地図とかを引き伸ばしたやつです)
これは子供がうんぬんというよりも、親が教育にどれくらい関心があるかということの現れなのです。
余談ですが、ドラゴン桜の登場人物である矢島の家はお金持ちで両親は彼に中学受験もさせていましたが失敗しています。
家に地図があったかどうかはわかりませんが、矢島は地理が苦手なのでセンターは世界史という描写があったのを覚えています。
お金も確かに必要なのですが、個人的には良い塾に入れるとかそれ以前の部分で教育には重要なポイントがある気がするのですよね。
さて中学受験は下手な大学受験よりもよほど大変で、
子供だけが頑張れば良いというものではありません。
大学受験は難関の国立を目指すと非常に勉強の範囲が広くなります。
結果、寮などに住み込みでつきっきりの医学部専門塾など以外、普通の予備校ではカバーしきれないために自分で勉強する「自立」が必要になってきます。
受験生自体もそれなりに中学高校と、場合によってはバイトの経験があり社会とも関わりのある子供から大人に変わる年齢です。
進学の後の「○○の研究がしたい」といった目標をしっかり見据えている子もゼロではありません。
そう考えると大学受験では受験生自体がそれなりに自立出来る下地は整っているのですよね。
一方で中学受験はこれもまた範囲が広い上に難易度が高い。
例えば公立の高校受験問題で半分程度しか点を取れない中学3年生が、
難関私立中学校入試の算数を解いたら半分も取れないかそれ以上にボロボロな結果になるでしょう。
(「二月の勝者」の2話目で学校のテストで100点取れる子が模試では20点取れるかどうかというのは誇張ではないのです)
ですが、そんな難しい問題を出来るようにするために小学生を年単位の泊まり込みで預かる塾は皆無ですし現実的ではありません。
そしてほとんどの中学受験をする小学生は受験のあとの明確な目標はないのが実情でしょう。
だからこそ、家庭の教育力と本気が必要なのです。
1話目冒頭で語られていた、
第一志望校に合格できた理由は
父親の経済力と母親の狂気というのは伊達ではないのです。
中学受験において家庭の重要性が理解いただけたでしょうか?
「二月の勝者」は2,3話でサッカーを習っていて中学受験を迷っている子の家庭について言及しており、内容はほぼ親の説得がメインでした。
今後も家庭の問題にもバンバン切り込んでいく感じがして目が離せないのです!!
「二月の勝者」待望の1巻は2月9日発売予定です!
作者の高瀬志帆先生はグルメ系漫画を描いていただけあって、1話のカツサンドが美味しそう。
過去作の「おとりよせ王子」もオススメです。
受験漫画の金字塔「ドラゴン桜」はもちろんオススメ。
ついでに今回触れたお仕事物で「重版出来」もオススメです。